第45回公開授業

短大 学力向上講座
CGデザイン特別演習
研究授業  
意見交換会
平成18年8月21日(金)
産業技術短期大学

授業者 大江 完(岡山学芸館高校 美術科)



研究授業

 6限 学力向上講座 CGデザイン特別演習 (2回目) 

 

 

 この講座は、昨年度の8月に産業技術短期大学で行われました第36回キャラバンのパート2として行われました。授業担当者は、岡山学芸館高等学校 美術科の大江 完先生で、内容は「イラストレーター(Adobe Illustrator)」から始めるCG教育の導入」というテーマで公開していただきました。

 この特別演習は、8月21日から25日までの5日間、朝10時から午後4時までの集中講座で、イラストレーター(Illustrator)でのCG導入からアニメーション作成までを行う講座です。

  
  第36回キャラバンのレポートはこちらから

 
授業風景
やはり、デザインを学ぶにはマック。各学生の画面には、今日の午前中に作成した魚のデザインが描かれていました。
大江先生は、ニコニコ笑顔で、学生の作品を見てまわります。
教室の周囲には、岡山学芸館高校の生徒作品が、大きなパネルで展示されていました。
基本の図形から様々な変形により異なるイラストを描いていきます。今日が初日とは思えないほどイラストレータをうまく使います。
左の楕円から、右のハートに変形できれば、イラストレータの習得はほぼOK。
学生もかなり上手に変形できます。
さらに、そのハート形をアレンジして、新しいデザインを作成します。
これは、学生が自由に作成した作品です。もう、ここまでできる人もいます。
岡山学芸館高校は、夏の甲子園岡山県大会のベスト4だったそうで、
その時の熱戦のようすを右のような速報にしてつくられたそうです。
もちろん、イラストレーターで作成されました。
 
意見交換会

司会: 長尾先生(大阪信愛女学院短大)
昨年の36回キャラバンにも参加された先生が何人もおられますが、まず、最初に、産業技術短大システムデザイン工学科助教授の小池先生から、この特別演習について説明していただきます。

長尾先生:
授業の位置づけは?


小池先生:(産業技術短大)
「システムデザイン」という科称は各学校によって内容が異なります。慶応大では建築系。改組転換した大学では多くの場合、システムデザインは一応設計なのだが、本学では、機械設計よりも上流部分の概念設計、意匠設計という部分を意識して取り入れています。
デザイン系がカリキュラムになかったので、新学科がスタートした年の夏休みから、この特別演習を実施しています。入学生の希望分野は、ロボット1/3、情報1/3、デザイン1/3です。学生の希望にできるだけ応えるという意味で開講しています。大江先生とはCGアーツ協会での繋がりで、また、このキャラバンとのつながりは、元精華高校の村上先生と、これもCGアーツ協会での繋がりからです。

長尾先生:
受講者(対象者)は?

小池先生:
この特別演習は、システムデザイン学科の10名と、情報処理工学科の4名が受講しています。全員にチラシを渡して希望者を募っていますが、来年度からは、正規の授業となる予定です。

長尾先生:
では、授業担当された大江先生にお伺いします。この授業の狙いは、どういうところにあるのでしょうか?

大江先生:(岡山学芸館高校)
昨年はアニメーションでした。今回は、イラストレータの基本からで、ある意味でプライマリな部分をご覧いただけたと思います。
私は岡山学芸館高校(私学、共学)の普通科で、「選択美術」を担当しています。入学前から、何をやっているかを知っていて、この授業を受けたいから入学してくる生徒が多いです。その中に、不登校生も少なからずいます。

1年生では(配布資料にあるような)パネル制作。2年生では、絵コンテを作成してアニメーション制作、…。これは、生徒の個人作品ファイルを作るのに役立つ。3年生では3D-CG。

一般に多くの専門学校では、短期間でも修得できることをわざわざ数年間に引き伸ばしているのではないかとさえ考えられます。これを高校でやってしまったら…。うちの生徒が選択美術での作品をもって専門学校面接に行くと、良心的な学校では「あなたの場合、うちに入学したらはじめの1年はすることがないと思う」と云ってくれます。

美術系、デザイン系の学校が、本来のその分野の教育をせずに、逃げ場のような役割をしていることが多いと感じています。

授業での評価は、生徒名簿を持って授業中に生徒の席の後ろを回りながら、「たこ焼きできたか?」などの細目について、できていたら「○」というようにつけています。一回の授業で10個程度の○(または◎、無し)を付けています。

生徒が作った作品について、自分で「作者のコメント」を書かせています。かつては、コメントを書けといっても生徒は全然書けなかったですが、しかし、それは、書けるようになる指導をしていなかったからだとわかりました。

イラストレータ!とは云っていますが、最近はラスタライズしたものを重視しています。

福田先生:(大阪学院大学高校 美術科)
御高校の美術の授業では、このイラストレータ系オンリーで授業を構成しているのですか?

大江先生:
もう一人、油絵の教師がおりますが、いまはほとんどイラストレーターです。

福田先生:
イラストレータ等のドロー系ソフトは、ベジェ曲線に慣れるのに時間がかかると思いますが、その辺の苦労はどうですか?

大江先生:
ぺイント系のソフトの経験者が入学してくるようになって、かえって、「ドロー系は苦手」という意識をもっている分たいへんになっているかもしれません。しかし、ペイント系の作品を大判印刷するのは現実には難しいです。プロのように150MBもあるファイルを作っていくのも現実的ではないし。そういう意味で、一応、ドロー系の必要性を納得させています。

福田先生:
美術系としての進路指導はどのようにされているのですか?

大江先生:
一番、困るのは、自分が何をやりたいのかが分らない生徒です。美術、CGという切り口があることで、進路指導はし易くなります。近年は、関西の美術系の大学が、説明会に岡山からの送迎バスを出してくれるところもあります。生徒が、そういうのに数回参加すると、「あの学校は、設備は良くないが、先生は熱心」とか、生意気なことを言い出します。

八田先生:(滝川中高等学校 美術科)
うちは今のところ、CG系にはまだ力を入れていません。これからやろうかというところですが、情報と技術家庭でPCルームが優先的に使用されているので、できない状態です。美術では、手の感覚の部分が大切と考え、男子校ですが、中1入学の段階で、鉛筆をちゃんと握れるか、のこぎりを押せるか、筆で色を(例えばムラなく)塗る作業等をさせています。
学芸館の生徒さんの記録を見ると、ペンによるイラストが上手に描けています。ということは、イラストレータで良い作品を作る子は、手でも良く描ける子なのかな…と思いました。

奥田先生:(大阪国際大和田高等学校)
不登校の問題や滝川の先生がおっしゃった実体験のないものという事で、リアルとバーチャルのバランスというか、現在模索しているところですね。岡山学芸完高校の男女比はどれくらいですか?

大江先生:
女子:男子=7:3ぐらいです。

奥田先生:
生徒の目的意識が変容していく時代への対応はどうですか?

大江先生:
生徒は、放っておくと、同人誌の漫画を必ずと(云っていいほど)描きます。「観ていただくために描くんだよ!」というところを重視しています。「ディスプレイに写っただけではだめだよ」という意識は強くしどうしています。
『社会に参加するのが嫌だから絵を描いている』というのではなく、『絵をもって社会に参加する』という意識からスタートさせています。『自分は社会に出ないけれども、作品は世の中に出て行く。その作品への愛情によって(弱い自分でも)社会に参加できる』という考え方ですね。
はじめは「4年生大学への進学者を増やそう」などという思いもありましたが・・・

鈴木先生:(日新高等学校)
「500字もの自作品へのコメントを書けるように」の指導の方が、作品そのものよりも大変だったのではないかと思いますが。今の生徒はなかなか書けないので、参考になりました。

大江先生:
400字原稿用紙のように見せていますが、実は500字あります。少しでも沢山書かせたいという思いです。自分の思ったことを書け!というと書けませんが、作品のコメントだから書けるという部分もあるかもしれません。
体育クラブでは、「一日、一日学んだことを膨大なノートに書いて、それを指導者が読むのは当然だ」というようなことをある先生に言われて笑われました。運動部では、そんなことは常識だそうで・・・・

鈴木先生:
運動部の場合は、ある意味で戦闘集団であり、一つの共通した目標に向かっているので、美術とは異なると思いますが。

森他先生:(大正高等学校)
本校の美術教師もやろうとしているので、参考になればと思い参加しましたが、イラストレーターとフォトショップの違いと問題点はありますか?

大江先生:
イラストレーターは紙面編集ソフトなので、ゴール地点というか目的をしっかり見届けてから取り組んだ方がいいかも。意外に軌道修正がきかないのではないでしょうか。
 

長尾先生:
情報も美術も「表現」という内容を含んで指導することが大切だと思いますが、美術教育と情報教育は、何が違うのでしょうか、実は同じなのでしょうか?

笹谷先生:(相愛高等学校)
1年前から、自分自身が、イラストレータやフォトショップの操作を(学校へ通って)習いました。それは、情報の授業で、生徒に対して、円の描き方の操作は教えますが、美しいかどうかは云えません。そういう開き直りになっている情報教員が多いと思いますが、それではいけないと思います。先ほど、大江先生は、◎、○、×のような評価で上手いかどうかをあまり評価してないということでしたが、いま美術教育界ではそれが普通なのですか?

八田先生:
できるできないの評価と上手下手の評価の両方あります。3cmの幅の領域に線を10本描けたらOKとか。

福田先生:
私の評価は、プロセスを重視します。我が校の「情報デザイン」ではWebページの作成を目標としていて、文章では国語科、データ収集では社会科というように、他教科との係わりをもちながら進めたいと考えています。ビデオカメラ等の新しい時代の機器が普及しているのに、学校教育においては、表現方法が旧態然としたままということに自分は疑問をもっています。

市川先生:(大阪信愛女学院短大)
「情報」の教員はその理解、姿勢ともに千差万別。制作時の「テーマ決め」に関しては、大江先生はどのように係わりますか?

大江先生:
先ほども触れたように、放っておくと生徒は同人誌漫画様のものを描きます。だから、テーマについてはかなり強力に誘導するようにしています。アニメだけなく、日本画、歌舞伎、などと・・・

長尾先生:
イラストレータの操作は「情報」でやっておいてもらったら、もっと美術教育にとっては助かるという感覚なのか、それとも、自分がイラストレータの操作からするのに意味があるのでしょうか?

大江先生:
ソフトの操作に関しては、ビデオ録画機の「予約録画の仕方」みたいなもので、それ自体には何の意味もないと思います。自分はExcelを殆ど使えません。使おうという発想がないです。イラストレータ等のソフトも、その操作だけを修得しても、使う目的がなかったら、私の場合のExcelのようにすっかり忘れてしまうでしょう。

二井見先生:(産業技術短大)
最初の「らくがき」ができるといことが大事だと思います。その「らくがき」さえも描けない子の指導はどうしたらいいのでしょう?

大江先生:
選択授業なので、ある程度描ける子がきているという事実はあります。各生徒の力は、それぞれの表現法に触れさせてみなければ見えてきません。例えば、筆で描く絵は下手でも、ベジェ曲線は上手というのもあるし、アニメをやってはじめて「重さ」を表現する力があることが現れてくるということもあります。

松本先生:(大阪学院大学高等学校)
自分は福田先生と組んで情報科をやっています。フラッシュとDreamWeaverを中心にしています。TV番組のコーナーのオープニングに取り上げられたきっかけは?また頻度は?

大江先生:
オープニングアニメは、2年半で20人ぐらい。ほぼ毎月という頻度です。マスコミとの繋がりについては、やはり、かなりの営業努力が必要と思います。一度来校したら、何回分もの取材が出来るように資料を用意したり、、、、、

松本先生:
普通科全体の、或いは入学者の学力アップに繋がっているのでしょうか?

大江先生:
う〜ん、学力アップには繋がってないと思います。学校へ来ない子が多いような状況だし、勉強のことは非常に不安ですね。


笹谷先生:
先ほどのビンのイラストでは、どれが評価が高かったのでしょうか?

大江先生:
ラベルがあるか?ガラスの厚みを表現しているか?中身は入っているか?フォントをちゃんと使ってるか?などですね。
まあ、手間賃みたいなもので、如何に時間をかけて見えない努力をしているかですね。その見えない努力を見えるようにするのが私の仕事だと思っています。

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