第9回公開授業
  
集中講座情報科「ネットdeディベート/メディアで変わる?コミュニケーション」

研究授業  
意見交換会  

平成14年7月12日(金) 第5〜7限
清教学園高等学校 http://www.seikyo.ed.jp/
1年情報科
授業者 小林直行・佐竹学・長尾尚



研究授業 情報科「ネットdeディベート/メディアで変わる?コミュニケーション」


  先回に引き続いて清教学園でのキャラバンはなんと3回目。1回目、2回目と中学の授業を公開されましたが、いよいよ今回は高校の授業公開です。今回は専任の情報コーディネータをされている小林先生が企画・開発をされたアンケートシステムを用いての授業を、佐竹先生と、信愛女学院メディアセンタの長尾先生が実践されました。小林先生といえばVB(バーチャル・ブレインストーミング)というネットワーク上でアイデアをだしあう掲示板システムの生みの親。今回は自作のアンケートシステム(Qボード)を活用した授業を提案してくださいました。

清教学園ではこの時期、1年生を対象に「夏季集中講座」を開講しています。クラスごとに午後の3時間をまるまる活用して、1〜2時間の普段の授業時間ではできないような学習を展開しています。そしてなんと、「情報科」を先取りした授業をこの講座では実施されているそうです。

 数年前まで、この時間はパソコンの基本操作の実習でした。しかし、パソコンの操作に慣れている生徒が多くなってきたため、インターネットを活用した調べ学習とディベートを取り入れた講座に変更されたそうです。短時間集中で、調べる・まとめる・発表するのいわゆるプロジェクト型の学習を取り入れています。情報科の実習や、総合的な学習の時間との連携も期待できる、面白い取り組みですね。

 

 授業は2部構成。前半は佐竹先生によるディベートを組み入れたプロジェクト学習。後半は信愛女学院の長尾先生による情報メディアとコミュニケーションをテーマにした特別メニューでした!

メディアで変わる?コミュニケーション

(PDF)

賛成・反対の根拠を調べ中 ディベートのテーマは「家は木よりもコンクリートだ 」「住むなら都会よりも田舎がよい 」「新聞よりテレビのほうが情報を得やすい 」の3つ。6グループをそれぞれに賛成・反対派に分かれ、テーマにそって立論の根拠になるような情報をインターネットを検索して探していきます。集めた情報は、プレゼンテーションソフト(Power Point)にまとめ、同時に発表の準備もします。短い時間ながら、さまざまな賛成・反対の理由をネット上から集め、すぐさまプレゼンテーションをつくってしまう手際の良さには驚かされます。

てぎわよく発表 


 「官房長官(班長)」、「資料作成部」「メディア広報部」「Web 情報収集部」といった役割分担をして、チームワークを大事にした活動を設定しているところもポイントです(資料参照)。  立論発表では、官房長官役の生徒が、短時間で調べた情報をまとめたプレゼンテーションを表示しながら、自分たちの立場を主張していきます。

アンケートシステムで結果をみる



 そして、登場するのが小林先生作のアンケートシステム。賛成側、反対側の発表を終えて、どちらのグループの主張が説得力あるものだったのかをパソコン上で入力すると、すぐさま集計結果がスクリーンに表示されます。挙手では、まわりの反応が気になってしまいますし、どちらを先に聞くのかで結果も変わってくるかもしれません。ネットワークを利用したアンケートシステムが使える、面白い場面でした。


 メディアを使って情報を集める、相手を説得できるように発表を工夫するといった、調べる・まとめる・伝えるの手順を短い時間内で体験したことは、総合的な学習や情報科の実習につながっていくのではないでしょうか。


メディアで変わる?コミュニケーション

 授業後半は、ゲストとして信愛女学院の長尾先生による「メディアで変わる?コミュニケーション」。メディアの使い分け、特性のちがいや、メディアについての不安を気づかせることをねらいとしたそうです。題材は「外国人労働者の受け入れについて」なかなか難しい課題ですね。長尾先生による解説の後、生徒は賛成・反対とその理由をメールで送ります。

 次に、賛成・反対の理由を口頭でも発表してもらうように長尾先生は指示しますが、課題の難しさもあり、なかなかうまく主張できません。そこで、ちょうどタイから留学生できていた生徒に長尾さんは英語で尋ねます。すると彼は、身振りも交えてきちんとした英語でしっかりと自分の考えを発表しました。聞いていた他の生徒は少なからずショックを受けたようです。

 そこでさらに長尾先生は一工夫。VB(バーチャルブレインストーミング)ボードに、生徒にもう一度意見を書きこみさせます。するとビックリ!ついさっきまであれだけしゃべれなかった生徒が、どんどん書き込んでいきます。VBでは、名前が出ないので誰が書いたのかわかりません。メール(口で言う必要はないが誰かはわかる)、口頭で発表する(みんなの前で発表する必要がある)、VBで書きこむ(匿名)というコミュニケーションの仕方の違い=メディアの違いが、まさに実感できる場面でした。

 

生徒の感想

☆ ボードで皆の考えていることが分かって楽しかった。ということは、自分の考えも、伝えていくべきだと思った。

☆ 自分の意見を人前で主張できるようにならなければと思った。思っていることをきちんと話すのって簡単じゃない。

☆ 自分の発表した意見には、それなりの責任も伴うのだなと思った。

☆ ディベートでは、自分が肯定か否定かということに左右されず、論述を評価するのが難しかった。また、説得力のある文書を作る力は大切だと思った。

授業者のコメント

 今回は、急遽一部授業を担当することとなりました。小林先生の開発されたボードは、インターネット上でみんなの意見を集約できるということでディベートを実施しました。初めての生徒も多く戸惑っている様子でしたが、そこは高校2年生うまくまとめて発表していました。VBボード・Qボード・メーリングリスト・WEBページ検索などインターネットを利用することで生徒の積極性を引き出せていましたが、他の先生が同じ授業を考える場合、これらのツールをどのように利用されるかという、別の興味も湧きました。(佐竹)

 この日私は、授業で利用するツール(VBボード、Qボード等の)説明をしただけで、授業そのものはしませんでした。他の学校の先生が授業をされる、また校内の他の先生にもやってもらい、その『交流』の中で勉強をすることができたのはとても新鮮でした。(小林)


 やはり他の学校で,初対面の生徒さんを相手に授業をしたわけですから不安と期待とが入り混じったワクワク・ドキドキの緊張感で一杯でした。お互いに相手のことを知らずに「授業」という場で接するので,ちょうど新入生のクラスに初めて足を運ぶ時のような新鮮さを感じました。貴重な体験を有難うございました(長尾) 

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意見交換会

司会:長尾 尚 先生(信愛女学院)

パネラー:小林先生(清教学園)
佐竹先生(清教学園)
  
記録:関西大学大学院 稲垣忠

 意見交換会では、ディベートを取り入れた授業の仕方、アンケートシステムの活用について活発な話し合いがされました。今回の授業に触発された先生方もたくさんいらっしゃったようです。


ディベートを取り入れた授業

ディベートの準備にはどのくらいあてられたのか?
VBシステムじたいは前からあったが、授業としてディベートをとりいれようと思ったのはつい3日前。班分けは今日座ったままをそのままグループにした。(佐竹)

Q:その場で提示されたテーマでいきなり調べた割りにとてもがんばってたのではないかと思う。教科では、ディベートを取り入れた授業はどの程度されているのか?
国語か社会科で3年間に1、2回はしていると思うが、取り立てて指導しているわけではない(山本:清教学園)

Q:ディベートとして論理や根拠の確かさを冷静に判断できるようなテーマ設定が必要だったのではないか。好き嫌いで判断できてしまうテーマだけに発表の内容をしっかり判断してアンケートに答えられていたかどうか(稲垣:関西大学)
集中講座なので、この中で完結させなければいけない。その中でどういうテーマを選んでどう終着させるか、時間が短いだけに難しいですね。表現(プレゼンテーション)することを学習のねらいとして焦点化するならディベートではなくてもいいかもしれない。それとも、寝るときにベッドがいいか、布団がいいか、みたいなより範囲をしぼったYES/NOがだせる問いだと、いいやすいのではないか(市川:信愛女学院)
一方の立場になってしゃべっていること(意見)と人間性はちがう、ことはディベートの学習では強調されていたが、高校生では、すぐに人間性に結びつけてしまうので、テーマ設定には注意する必要もあるのではないでしょうか。(坂東:聖母被昇天)

・長尾先生の授業は国際理解がテーマになっていたが、本質的な意見も数多くみられ面白かった。外国人労働者の受け入れについて、賛成側の意見には理想的、反対者は現実的といった傾向がみられたように感じたが、価値観をどういうところに落とすべきか、ディベートだから落としてはいけないのか、難しい問題があると思う。(辻:帝塚山学院)

アンケートシステム(Qボード)やVBボードの活用

Q:今回のシステムは?
小林:1から自分でつくりました。アンケートの質問項目を自由に作成できることがウリです。生徒自身が質問項目を作成するような授業もできると思います。(小林)
紙でアンケートを集計したこともありますが、授業時間内では集計に手間取ってしまう。リアルタイムで結果がでるのは面白い。(坂東:聖母被昇天)
兵庫県でも情報科にむけた勉強会をはじめたんですけど、大阪はとてもがんばってますね。Qボード、VBボードは使い方をうまくするととても面白いと思った。特にVBでは、1人の書きこみをきっかけに、わっとさまざまな意見が集まってくるところがよい。(宮浦:須磨学園)
僕もあんなに書くとは思ってませんでした。(長尾)
ある意味日本人向きかもしれません。匿名でのコミュニケーションも、授業の場面によっては活用する面白さがあるのでは。(小林)

・これまで見てきたのはリテラシーの授業が多かったんですが、今回のようなタイプの授業は新鮮で勉強になった。たとえば今日のようなツールを業者に頼むと100万かかるなんていわれてしまう。自分の学校でも利用できるのであればぜひやってみたい。すぐさま結果がでるのがいいですね。このようなイントラネットで活用できるソフトがあると授業に使いやすいですね。(高橋:仰星)

・長尾先生の授業で最後にVBにあれだけの書きこみが集まったのに驚いた。小学校で手を挙げさせて聴いた意見を板書しながら整理していくような授業をよくみるが、このVBボードでも、意見をまとめたり、整理するような仕組みがあるといいですね。(中橋:関西大学)

そのほかのご意見

・長丁場だったけど生徒は最後までだれることなくがんばっていた。「長かったけど面白かった!」なんて生徒の感想も聞かれた。長尾さんの授業でも、テーマは国際性の方になっていったが感動できるいい授業でした。ボードシステムについては、私もつかってみたいです。(南:賢明学院)

・ひさびさに参加させていただいて同じく感動した。今日の授業をみてまたがんばっていきたいと思いました。仏教大の方で情報科免許取得のために単位受講しています。(川崎:賢明学院)

・長尾先生が英語をしゃべった瞬間から生徒の表情がかわった。先生自身が、まずは英語でコミュニケーションする力が必要ですね。(坂東:聖母被昇天)
時間があれば見に来られた先生方にもっと加勢してもらうことも考えていました。何が出てくるかわからない、その場の判断が要求される授業は怖いとは思う。けれど、そこで先生どうしの協力体制がとれていれば、クリアしていけるのではないでしょうか。(長尾)

 


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